dantelのブログ

日々の心境、思想、学び、気づき等を書き留めています。いつか、後世への遺物となることを願っています。

飛ぶ教室

エーリヒ・ケストナーの【飛ぶ教室】を読みました。なかなかインパクトのあるタイトルです。

ドイツのキルヒベルクにあるヨハン・ジギスムント高等中学(ギムナジウム)の寄宿舎を舞台として、出身階級や性格の異なる寄宿生5人を軸に展開される、彼らにとっては短くも長い四日間の物語です。(クリスマスの頃のお話です)

小学校高学年~中学生ぐらいの男の子たちが繰り広げる友情、悩み、葛藤、そして先生や大人たちから受ける様々な教えに心が動いたり、そんなことが描かれていて(自分のあの頃なんかも思い出し)、とても懐かしい気持ちになりました。

多くの人にとって、この少年から大人になる頃の短い時間は、いつまでも強く残っているものでしょう。


この物語の時代は1930年初頭。ドイツは第一次世界大戦の敗戦により、非常に貧しい時代であり、またナチス党がちょうど政権を取った頃の時代でした。

物語に出てくる男の子たちの年齢からすると、きっと第二次世界大戦には戦争に駆り出されたことでしょう。迫害を受けたものもいたかもしれません。

それを考えると、不条理な世の中に辛くなるのですが、なぜか登場する子供たちは、強く生きる希望を与えてくれるのです。

この物語に、作者のケストナーナチス下において強烈なメッセージを残してくれています。それは、先生が生徒たちにこう語るシーンです。

『平和を乱すことがなされたら、それをした者だけでなく、止めなかった者にも責任はある』

『世界の歴史には、かしこくない人人びとが勇気を持ち、かしこい人びとが臆病だった時代がいくらでもあった。これは正しいことではなかった。』

まるで数年後の大戦を予言するかのようです。

実はこの【飛ぶ教室】は、ナチス下では危険思想本としてすぐに焚書処分。ケストナーの本はほとんど図書館の棚から姿を消したそうです。

やはり、自由とはこういった形で奪われるのでしょう。

かしこくなるとは、普遍的な正義の感覚を失わぬこと。勇気をもつことは、声にすること。そしてなにより、他人の立場になって、優しくなること。

そんな大切なことを教えてくれる本当に佳い本でした。