黒澤明【生きる】
黒澤明監督作品、『生きる』を観ました。
昭和27年の映画ですから、当時の様子がうかがえることも、古い映画の楽しみですが、この生きるには、人間の何たるものかが、明白に描かれた素晴らしい映画だと感服致しました。
主人公は、退職間近に迫った役所勤めの課長。約30年、無遅刻無欠席という素晴らしい勤務態度であったが、特に周りからも尊敬されているわけではなく、どちらかといえば、お荷物な存在でした。
毎日のように、山積みされた書類に目を通し、印鑑をついていくだけの仕事。
この主人公に対してナレーションは、
「彼は時間をつぶしているだけだ。彼には生きた時間がない。つまり、彼は生きているとはいえないからである」
などと問題提供しています。
しかしある日、彼は自分が癌であることを知るのです。(実際には医者から軽い胃潰瘍と告げられますが、当時は癌の告知はなかったようですね。)
当時、癌は不治の病でしたから、死を叩き付けられたことになります。
絶望した主人公は、コツコツ貯めてきた大金を下ろし、居酒屋で一番高い酒を飲み、キャバレーに行き、若い女とダンスをして遊ぶのですが、ダンスホールで自らリクエストした音楽に、自分の人生が投影され、我にかえるのです。
無遅刻無欠席だった仕事を5日も無断欠席していたのですが、残りの人生をかけて、やるべきことに挑んでいくのです。
生きながら死んでいた人生から、
死を目の前に生きた人生への変化する。
生きるとは何かを、究極にこの映画は観るものに問うている、私はそのように感じました。
また、人間とは何かを、
明確に示しているとも思います。
それは、お通夜のシーンと、その後の日常のシーンに現れます。
単なるハッピーエンドではなく、人間の情緒や優しさ、そして未熟さや勝手さが最後まで描かれていて、さすが黒澤明!と唸ってしまう興味深い映画でした。
悲劇と喜劇のようなものが、
私の人生にも沢山潜んでいる。
この映画から、また改めて学ばせてもらいました。